乃木坂46「オフショアガール」~白石麻衣とはカレーである~
「オフショアガール」のベタベタな魅力
乃木坂46の15thシングル『裸足でSummer』。
そのTypeAに収録される「オフショアガール」のMVを見ました。
待ちに待った、まいやん初ソロ曲です。
グアムで撮影されたらしいですが、まったくグアムっぽくない。
はっきりいって、安っぽい。
しかし、ぼくにはその安っぽさがかえって魅力的に思えた。
というのも、この曲とMVにはベタな魅力がいっぱいにつまっているからだ。
聞き覚えのあるメロディ
乃木坂46「夏のFree&Easy」みたいなギターのイントロではじまる。
Aメロは、同じくNMB48「虹の作り方」のAメロを彷彿とさせる。BメロはNMB48の「ナギイチ」のBメロみたい。サビの男女によるコーラスは、松田聖子の「渚のバルコニー」みたいな80年代アイドルソングの手法だ。
念のため言っておくと、パクったとかパクってないとかいう問題ではない。
定番の要素をつめこんだ、誰にでもわかる気持ちいいメロディということだ。
細かなところでは、ところどころ入るキーボードのキラキラした音色は夏の日差の表現だし、最後の方でスローテンポになるのは夏の終わりを意味している。
こういうのは、ベタ中のベタだけどグッときますね。
なんの引っかかりもない歌詞
この曲を象徴するのが、サビの「オフショアガール 夏のマドンナ」という歌詞だ。
マドンナという言葉は、社会党の躍進をあらわす「マドンナ旋風」や、女子野球日本代表の愛称である「マドンナ・ジャパン」くらいしか存在しない。
前者はとうに死後だし、後者もダサいと悪評ふんぷんだ。
マドンナは昭和の言葉。オヤジくさいワード・センスである。
まあ、作詞をしているのが紛れもないオジサンなんだから当然だけど……。
ほかにも、「海へと帰るマーメイド」や、2番サビの「サーファーガール 夢のヒロイン」に代表されるように、この歌には新しい表現がほとんどない(唯一、「風の引力に誘われ」は工夫された表現)。
なので、ぼーっと聴いていると歌詞が頭に入らない。耳にひっかかるような言葉えらびや、違和感を覚える譜割りがないからだ。
しかし、こうした古臭くひねりのない言葉が、白石麻衣の歌声にかかると生き生きとして聞こえてくるからおもしろい。
白石麻衣は、別に歌がうまいわけじゃない。
というか、ちょっと下手だと思う。
具体的には、TOKIOの長瀬智也と同じく、曲のキーよりやや上の音で歌っているような気がする。でも、そのハラハラするような声がベタで凡庸な歌詞に乗ることで、かえって際立っている。
もしも、あれこれ趣向をこらした歌詞だったら、そればかりが強調されて、まいやんの声は印象に残らなくなるだろう。
グアムとは思えないMV
MVについて、乃木坂46の公式サイトではこう説明されている。
「パドリング」「オフショア」など、夏のサーフィンをイメージさせる楽曲という事もあり、6月下旬にグアムにて撮影。
正直いって、マジかと思った。
というのも、この曲からは常夏の島グアムの雰囲気が感じられないからだ(常夏の島って言葉も死後か……)。沖縄で撮影されたはずの「裸足でSummer」のほうが、ずっと南国っぽく見える。
MVの中から、いくつかキャプチャしてみた。
グアムらしさというのはあまりないでしょう。沖縄で撮影しても十分だ。
ただし、このMVは公式サイトの説明にあるようなグアムでの撮影を全面に押し出したものではない。
どうでしょう。
どれもこれも、どっかで見たようなショットだ。
MV冒頭のタイトルロゴはいい具合にチープだし、ビーチチェアのシーンはセットかと思うほど安っぽい。乃木坂は水着を着ないので、その代わりにサーフボードにまたがるとうサービスショットも用意している。自転車とアイドルという組み合わせは、夏のアイドルソングでは100回くらい見た気がする。
ここには、ディレクターの自己顕示欲みたいなものが一切ない。夏のアイドルソングというお題に合わせて、徹底的にベタなものを追求している。
ただし、そこに映っているのは並のアイドルではなく白石麻衣なのだ。
白石麻衣の魅力だけで勝負
はじめに述べたとおり、ぼくは「オフショアガール」を非常に肯定的にとらえている。
なぜなら、これは白石麻衣というアイドルを100%堪能できる作品だからである。いわば、白石麻衣のプロモーションビデオといってもいい。
白石麻衣の魅力を伝えるために、斬新な歌詞や転調いっぱいのメロディや独創的なMVの演出は必要ない。
ただ白石麻衣がいるだけで充分なのだ。
カレーには何をいれても美味い。しかし、一番うまいのは余計な隠し味など加えず固形ルーだけで作ったカレーだ。同じく、白石麻衣もできるだけ純度の高い状態であればあるほど魅力的になる。
まいやんはカレー。
もうやんカレーならぬ、まいやんカレーだ。
……これがいいたくてここまで書いた。
でも、マジで「オフショアガール」はいいと思う。
超ド級アイドルによる、ベタなメロディにベタな歌詞の楽曲。
これぞアイドルソングの保守本流。
そのすばらしさを、あらためて思い知らされた。