家から出て握手したら負けだと思ってる

完全在宅アイドルファンによるブログです

小栗有以&岡田奈々主演「舞台版 マジムリ学園」見てきた

 

お久しぶりの更新です。

10月23日に上演された『舞台版 マジムリ学園』を見てきました。

笑いあり涙あり、歌って踊っての総合芸術!

というと大げさだけど、事前に思ってたよりちゃんとエンターテインメントとして仕上がってた。

 

実をいえば、この日のチケットを取った目的の半分は岡田奈々の歌だった。ソロコンの評判があまりにもよかったので生で見たかったと思っていたところ、オープニングアクトが追加され、渡りに船と23日のチケットを応募した次第(ソロコンのDVDも買いました)。

歌ったのは「1994の雷鳴」と「涙の表面張力」。後からわかったことだが(というフレーズが劇中で何度か使われたので癖が移ってしまったが)、この2曲は舞台の雰囲気にもネロというキャラクターの生い立ちにも重なるものがあって良い選曲だった。

なにより、岡田奈々は本当に歌が上手い!

喉の手術をしたせいか、以前より声が高くなり音の通りも良くなっていて、ぼくとしてはあのハスキーな声もけっこう好きだったのでちょっと残念な気もするのだが、そのぶん声の伸びがものすごいことになってる。あまりに声量がありすぎてマイクが割れんばかりだった。

たった2曲だったけれ魅力は十分に堪能できた。

ただし、このオープニングアクトの時間が曲者だ。開演は18:30なのだが、オープニングアクトは18:20ごろから始まる。冷静に考えれば開演前にやるのは当然なのだが、席に座ってそわそわしていると客席の明かりが点いたままあのOvertureが流れてオープニングアクトが始まったのでちょっぴり驚いた。周りの人も「お、これはもう始まるのか?」的な雰囲気で、あわててスマホをしまったりしていた。

これから行く人は、周囲に迷惑をかけないように遅くとも開演15分前には着席して準備万端しておいたほうがいいですよ。

 

あとですね、この時点で痛感したことは2階席はハズレもハズレ大ハズレですね。

キャストの表情はほぼ見えません。おまけに、脚本そのものが1階席に向けて演技をするようになっているので、2階席はあまり作品世界に入り込むことができない。

舞台の奥には階段があってこれが作品上の演出効果を高めてる。たとえば、ネロがこの階段を駆けあがってソファに座ったり、荒地と嵐が丘をつなぐ地獄坂をこの階段で象徴させたり。奥行きを生かした殺陣が魅力的なんだろうけど、残念ながら2階からでは俯瞰する視点になってしまう。場面転換する際にはキャストがステージから客席に降りて通路を歩いてはけたりもしているので、1階席はまさに作品のただ中にいるような臨場感が得られたんだろうなと羨ましく思う。

ぼくは2階席でも前のほうだったんですけど、H列とかはさらに通路一つ隔ててるんで、もうなにがなんだかって感じになると思います。

 

で、肝心の劇本編。

以下、核心的なネタバレは避けますがストーリーに触れていますのでご注意ください。

 

まず、物語の大前提を知っている身としては冒頭の数分の件はやや退屈。ニュータウンができて、そこに高校もできて、生徒の大半は団地の住人だからヒエラルキー制度になってしまって、そこにリリィーが転校してきて……そんなんもう知っとるわ!

世界観説明は思いきって削ってもよかったんじゃないかなぁと思わなくもないが、テンポよくコミカルにやってくれるのでそんなにストレスにはならない。岡部麟の独白も聞き取りやすいし。

なにより、こうした説明シークエンスの終わりとともに始まるキャスト総出の「百合を咲かせるか」は圧巻だった。舞台手前の華組と奥の荒地が入れ替わり入り乱れ踊るさまはさしずめ『ウエスト・サイド・ストーリー』。その背後に映し出されるキャスト紹介。いわば最低限の設定説明をアバンタイトルとして消化しているわけで、これは上手いなと思った。

ほら、映画とかでもあるじゃないですか、始まってストーリーが進行して、しばらくしてドドンとタイトルが映し出されるやつ。あるいは、映画の最後の最後になってようやくタイトルが出るやつ。

あれ上手くいってるときはめちゃくちゃ気持ち良くてゾクゾクするでしょ。今回の舞台はそんな感じでした。

「あたしがリリィー」と歌い終わった瞬間、アメリカ人なら指笛を鳴らしていたに違いない。

で、まあ、なんやかんやあって、嵐が丘学園と荒地工業の物語が並行して語られる。一方の嵐が丘では、転校生のリリィを中心とした生徒会への対抗組織=華組が結成され、他方の荒地工業では、嵐が丘学園への復讐を企むネロが勢力を拡大し四天王のひとりに食い込む。

華組の人気が面白くない生徒会は、荒地四天王の3人、ゾンビ、クインビー、赤犬を利用しリリィを倒そうと画策。3人はリリィの前に破れるものの、そこにネロがやってきて言葉巧みに配下にし、とうとう荒地の番長に登り詰める。

この辺のネロの人たらし感は良かったですね。何度やられても立ち上がるがゆえにゾンビと呼ばれながら、リリィーに負け心の折れかけたゾンビには「おまえはまだ負けてないだろ」と助け起こし、実は家族想いのクインビーには自分の手首をナイフで切り「おまえの血をあたしにあずけてくれ」と優しく頼る。天然でやってるのか計算高いキャラクターということなのか、いまいち判然としないが(たぶんどちらでもあるということなんだろうが)、「こんな風に励まされたり優しくされたらイチコロで子分になるわ」という説得力十分。

ネロはもちろん、

「あ、いま堕ちたな」

とはっきりわかる演技をしていたゾンビとクインビーの二人もお見事。特にクインビーは女王さまキャラなだけに、素の会話のかわいさといい、ネロに墜ちた後の雰囲気といい、なんというかギャップが良かった。

「ネロさま、近隣の高校を制圧し配下を100人(50人)増やしました」と仕事熱心なゾンビとクインビーである。

唯一、赤犬だけが突然ネロに従っていて、というか、赤犬はリリィにも勝っていたのではないかと思うんだけど……さすがに同じ展開が3回続くと飽きるということでカットされたのかな。あれはどういうことなのかよくわからん。

そんなこんなで番長になったネロの元へ生徒会がやってくる。これまでの3人と同じように金を渡しリリィーと戦うように依頼するが、ネロはライターで火を点けこれを拒否。「わたしの狙いは嵐が丘だ」と宣言し、いよいよ全面対決になるのだが、この決起集会的なシーンで流れる歌が抜群にかっこよかった。

ドラマにはなかった舞台用の歌で、詳しい歌詞とメロディはさっぱり忘れたが、「トタン屋根とドブ川がおれたちの生まれた愛する街だ」、「荒れ地に咲く花であれ」、「苦しくても辛くても顔を上げ拳を突き上げろ」という内容で、これがめちゃくちゃ胸を打つ。

大嫌いだけど大好きな街だぜ、貧しくて辛い毎日だけど誇りを持って生きてるぜという荒地のアンセム。

ネロの優しい歌声から始まり、最後は荒地みんなで拳を力強く突き上げての大合唱。まるで『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」みたいだった。

いっしょに拳を突き上げ歌いたかったぞ。

歌詞がわからないし周りに迷惑だから自重したよ。

最後は両軍入り乱れての対決で、ここは冒頭と同じように「百合を咲かせるか」をBGMにしたダンスバトルの様相。気分はすっかりネロさまの子分なので荒地を応援していたのだが……オチはあれでいいのか!?

笑い話みたいになってるけど、出オチに逃げずもっと真正面から行ったほうがよかったんじゃないか?

リリィーに敗れたネロに悲しい歌のひとつでも歌わせるべきじゃないのか?

というか、客席は笑っていたけど、あれって演出家としては笑いを意図したシーンじゃないのではないか?

荒地に感情移入していただけにどうも最後の展開に納得がいかねえぜ。

 

最後に総論を。

この舞台は荒地の物語だなという印象を受けた。嵐が丘が舞台になるシーンはコメディパートが多く、実際、けっこう笑いも取っていた。そのぶんキャラクターの掘りさげはほとんどなく、主役のリリィーでさえ唐突に過去の回想が入るくらいだ。まあ、この辺はドラマでやっただろ、という判断なのかもしれない。

ひるがえって荒地の、特に四天王には、きっちり背景と見せ場が用意されている。それぞれにどういう事情があって、どういう理由で不良になったのか背景を説明し、感情を発露する場面がある。やってるメンバーは大変だけどやりがいもあっただろうなと思う。

それに、何を置いてもあの荒地の歌がある。あの歌を聴いたからには、これはもうどうしたって荒地に感情移入せざるを得ない。どこの誰が作った曲かも知らないが、あれを聴けただけでも見に行ってよかった。