sora tob sakana「夜空を全部」の危うい魅力
オサカナ
sora tob sakanaってご存知ですか?
声変わりもまだかと思うような少女たちが、ピコピコキラキラ系のメロディーにのせて、ノスタルジックな感情を歌うという、今年ブレイク必至のアイドルグループです。
リアル・サウンドにプロデューサーである照井さんへのインタビュー記事が載っていたので、今年ブレイク必至というのはぼくの勝手な思いこみではなく、業界全体の空気なんだと思う。
ぼくがオサカナ(これが略称です)を知ったのは、今年の2月にYoutubeにアップされた「魔法の言葉」を聴いてから。かなりのニワカファンだ。
その後1stシングルの「夜空を全部」を聴いて衝撃を受けた。もともとRocky Checkとか新居昭乃とかEufoniusとかが好きだったので、このメロディーと歌詞の世界観はドンピシャだった。
というか、これがドンピシャじゃないアイドルファンなんているのか?
メンバー
寺口夏花
風間玲マライカ
神崎風花
山崎愛
みんな15歳以下で、テアトルアカデミー所属。
テアトルアカデミーといえば、ぼくの生活圏にも養成所がある。
勝手に親近感を覚えました。
決して歌が上手いというわけじゃないし、ダンスだって普通だ。けれど、ここがアイドルのおもしろさなんだけれど、それゆえにリアルな少女のナマナマしさがある。このナマナマしさが空想的な楽曲と合わさって、他にはない魅力を作り上げている。
sora tob sakanaは現在2枚のシングルをリリースしている。
その中でもひときわすばらしいのが、1stシングルのタイトルでもある「夜空を全部」だ。
夜空を全部
メロディー
どうやら、こういうのをポストロックとかエレクトロニカというらしい。ジャンルはともかく、電子音で彩られたメロディーは不思議な浮遊感を感じさせる。と同時に、急かすようなテンポのこの曲は、幸福な子ども時代がもうすぐ終わってしまうことを暗示している。
歌詞
プロデューサーの照井さん自身が語るように、オサカナの魅力はジュブナイル小説のような歌詞にある。
少し湿った草の上で
寝転び 思い返している
秘密の合言葉を
忘れずにいたいよ
星空の海の中を
あなたと二人 見上げてみたい
伝えなくちゃ 私の
夜空を全部
あなたに上げる
こんなにリリカルな歌詞を、中性的な声で歌われるんですよ。
心の琴線に触れまくりだよ。
MV
MVもめちゃくちゃいいぞ。
全体的に青みを帯びた画面は、歌詞の設定である夜をイメージしたものだ。
そして、この世ではない幻想的な場所も連想させる。
4人が手をつないでじゃれ合う場面なんか百合要素もあって、もう一生リピートしてたいくらい。
まとめ
疾走感のあるメロディーとノスタルジックな歌詞と少女の不安定な歌声。
この3つが合わさることで「夜空を全部」は成立してる。
プロデューサーの照井さんは、インタビューでこういっている。
イラストレーターのたかみちさんみたいな世界観。僕はそこに一定の需要があるとずっと思っていて。特にアイドル好きに対して、その世界観と低年齢のアイドルの組み合わせは響くのかもしれないと感じたし、僕自身はエレクトロニカにも影響を受けているので、どちらかというと、ポストロックよりもこの子たちにはそのほうが合うのかもと思いました。
その通り、アイドルとノスタルジーは合うんですよね。
なぜなら、アイドルというのはあらかじめ終わることを定められた存在だから。アイドルはあくまで期間限定の存在だ。ちょうど、子ども時代がいつかは終わってしまうのと同じように。
「夜空を全部」がどうしてこれほどまでに心に響くのかもわかる。この曲は、生まれたばかりのアイドルがいずれ来る終わりを先取りして歌っているからだ。
それでもチクタク時間は過ぎる
誰も止められない
きっとずっと続くよなんて
子供じゃない
この部分は、幸せな幼年期の終わりを表すとともに、sora tob sakanaというアイドルがいずれは大人になってしまうことを暗示している。
たとえば、数年後のオサカナが「夜空を全部」を歌ったとしても、このMVほどのクオリティにはならないと思う。この曲は、思春期を迎える前の、性的に未分化な状態の少女だからこそなしえた、危ういバランスの上に成り立っているからだ。
18歳の女の子がこの曲を歌ったとしても、それはただのラブ・ソングになるだけだ。
(もちろんそれはそれでいい曲になるだろうけど)
少女の貴重な一瞬を映像や歌声として収めることができたという点で、間違いなく「夜空を全部」は名曲だし、sora tob sakanaというグループの存在に価値はあった。
と、早くも解散した風だけど、7月には1stアルバムが出るらしいので買いますね。