家から出て握手したら負けだと思ってる

完全在宅アイドルファンによるブログです

『100%SKE48』 は「牧野アンナ先生×斉藤真木子」の対談と、ちゅりのインタビューを読むだけでも価値あり

積読になっていた本をやっと読みました。

BUBKAデラックス 100%SKE48 (白夜ムック546)

松井玲奈と宮澤佐江というグループの主柱が卒業し、かつてWセンターも務めた若手のエース宮前杏実も卒業を発表。とうとう松井珠理奈本人が「SKEはピンチです」といわざるを得ない状況の中、BUBKAが出版したこのMOOK本です。

正直にいって、ぼくはSKEの熱心なファンではありません。

地上波のバラエティは楽しんで見ていたし、各種ラジオも好きなメンバーが出ているときは聴いています。けれど、劇場公演を見た経験はほとんどなく、顔と名前が一致しないメンバーもいっぱいいる。

したがって、この本にはそれほど興味はなかった。それにもかかわらず買ったのは、ひとえに表紙のせいだ。

大きな瞳でこちらを見つめる珠理奈が発する「全てはSKEのために」「決起せよ。」というメッセージ。その下に連なるSKEの今と未来を担うメンバーたち。

まるで檄文か血判書じゃないか。

なにかある、買わねばなるまい。そう思ってしまったわけです。

『100%SKE48』レビュー

肝心の内容。

メンバーのグラビアはもちろん、中西優香を聞き手とした松井珠理奈へのインタビュー、東李苑&北川綾巴ダブルインタビュー、中央大学野球部に所属する弟の試合を観戦しながらの柴田阿弥へのインタビューなど、真面目なものからアイドルっぽいものまSで、バラエティに富んだ記事ばかりだった。

しかし、うれしい誤算というべきか、最大の読みどころは松井珠理奈へのインタビューではなかった。

それは「牧野アンナ×斉藤真木子 中途半端禁止マッチ~90分一本勝負~」と「高柳明音 SKE人生、その答え」だったのだ。

それは「逃げ」だよね

SKE48に全力ダンスの精神を植えつけたアンナ先生と真木子姉さんとの対談は、はじめこそ和やかな雰囲気だったものの、斎藤真木子キャプテン就任の話題になるやいなや、急速に緊張度を増していく。

牧野 私から真木子に聞きたかったのは、「今のSKE48はみんなどうなりたいと思っているの?」っていうことなんです。正直にいえば、テレビで踊っている姿を観ていても、それが感じられないんです。おそらく一般の人からすれば、AKB48とSKE48の違いはわからないと思います。SKE48というグループはメンバーひとりひとりが作り上げるものだと思っているから、みんながどういう思いを持って、どんなグループカラーにしたいと思っているのか。それ次第のはずなんだけど、今はそれが見えないんです。

斉藤 ……(無言で聞いている)。

牧野 もしくは、それすらもないのかなって考えることもありますね。

さらに、実はキャプテン就任の前には卒業も考えていたという発言の後には、こんなやりとりが。

斉藤 やっぱり歌って踊ることが好きなんです。選抜という場所に憧れはするけど、昔ほど魅力を感じなくなってしまいました。SKE48を離れて食べていく自信もないけど、一度外に出てみようかなと思っていました。だから、年内にはどうにかなりたいと……。

牧野 今の真木子を見ていて感じることはね、SKE48を飛び出してやっていくとしたら、まだ弱すぎると思う。

斉藤 …………。

(中略)

牧野 タレントとしてピンで勝負するって並大抵のことじゃないんだよね。だからさ、卒業後の人生を考えているなら、今もらっている以上のチャンスはないと思うな。そして、これがクリアできなかったら、たぶんダメだと思う。もしくは、キャプテン業を務め上げないまま卒業したら、それは「逃げ」だよね。

斉藤 …………(泣きながら)はい。

ぼくはこの対談を読んで、「マネーの虎」や「ガチンコ ファイトクラブ」を思い出してしまった。他の記事では嬉々として喋っている司会が、この対談ではめちゃくちゃ緊張しているのが紙面からも伝わってくる。 読んでいるこちらまで居住まいを正さずにはいられない、アンナ先生の熱い言葉。涙を流しながら耳を傾ける斉藤真木子。

編集者とライターが後記でアンナ先生をフォローせざるをえないような、ヒリヒリした空気感を味わうことができるぞ。

その後の、高柳明音へのインタビューもすごい。

選抜で後ろにいるから、総選挙で前に出たいんだよ!

総選挙は去年が最後になると思っていたというインタビュアーに対して。

高柳 それ、よく言われるんですよ。「去年も最後って言ってたじゃないか」って。だけど、私は「最後」という言葉は使わないようにしていました。そういう気持ちで去年出馬したわけではないんです。もし、総選挙後の私に大きな変化があれば最後にしていたかもしれないですけど。

――SKE48での仕事も増え、個人としても新たな道が見えていれば。

高柳 そうです。個人仕事をいただけるようになって、自分の道が決まり、かつSKE48での立ち位置も確立できていたら、去年が最後だったかもしれません。

この言葉は強烈だ。ファンにとってもメンバーにとっても、総選挙は特別なものだ。総選挙でランクインさえすれば何かが変わる。「世間に見つかる」。そう思って、誰もががんばっているからだ。しかし、選抜に入っても何も変わらなかったと高柳はいう。総選挙というイベントで巨額のお金と注目を集めるAKB48にとって、この発言は「王様は裸だ!」に違い、衝撃のひとことじゃないだろうか。

そして、高橋みなみの衣鉢を継ぐようなこの言葉。

高柳 私は、その時を全力で生きているだけの人間なんです。それが答えです。いつかセンターになるためとかじゃないんです。今頑張れば、いつか報われるんです。そう思って活動しているので。私が言えることは、「頑張っていても報われないことだってある。だけど、ここにいる以上はやるしかないんだよ」っていうことです。余計な考えはいらないんです。

(中略)

高柳 とにかくSKE48のために生きてきたということです。誤解を生まないために、成人式にも行きませんでしたから。年始に親戚が集まっても、年齢の近い従兄弟とは隣で歩かないようにしましたし。

どうですか、これ。

アイドルへのインタビューとは思えないよ。

自分が読んでいるのが『100%SKE48』ではなく、『KAMINOGE』じゃないのかと錯覚するほどだ。だいたい、見開きの「7年間のSKE人生で辿り着いた唯一の答え ただ全力を燃やすのみ」からしてすごい。グラビアの衣装と相俟って、完全に女子レスラーへのインタビューみたいだ。

そのほかにも、「後輩の後ろで踊りたいという気持ちでオーディションを受けたわけじゃないので。」や、紅白落選を知っても「悔しがっているメンバーがそんなにいなかったんですよね。そのことが私は悔しかった。」など、ちゅり語録とでもいうべき発言のオンパレード。読むものの闘志に火をつけるようなインタビューだ。

SKEはピンチを脱したのか?

この本の出発点として、「SKEはピンチです」という珠理奈の言葉がある。だとすれば、SKEはピンチを脱したのか。読んでいて感じるのは、メンバーの中で温度差があるということだ。たとえば、斉藤真木子や高柳明音はまだまだ危機感を持っている。一方で、東李苑と北川綾巴はヤマ場は越えたという考えだ。メンバーの想定するハードルや世代やポジションによって認識は変わるので、どれが正しいかはわからない。

しかし、松井珠理奈と高柳明音というふたりの主力メンバーが「レギュラー番組が欲しい」といっているのは興味深い。はっきりいって、いまのAKBグループは縮小傾向にある。かつてはゴールデンタイムにあった冠レギュラー番組は消え、深夜の『AKB有吉共和国』も終了してしまった。こうしたバラエティ色の強い番組の利点は、AKBグループのファン以外の視聴者も取りこめるところにある。ロンドンブーツの田村淳や有吉弘行といった芸人によってメンバーの魅力が十分に引きだされ、それによって、新たなキャラクターができたり、不意の視聴者をファンにすることも可能だった。申し訳ないが、『AKBingo』にはその役割を期待できない。ファンであるぼくからしても、あの番組はMCも企画もあまりおもしろくないからだ。

もちろん握手会や劇場公演でがんばることは必須条件。しかし、それだけでは既存のファンを満足させることしかできない。ピンチを脱するにはより広い層に訴えかけなくてはいけない。全国区のレギュラー番組は、メンバーにとってもグループにとっても、マスにアピールする最良の手段である。それをわかっているからこそ、ふたりは「レギュラー番組を」といっているのだと思う。

と、こうした鹿爪らしい考えも吹っ飛ぶようなものがラストに待っている。

小畑優奈&後藤楽楽のインタビューだ!

これがもう本当にすばらしい。一切の後悔や逡巡のないインタビューだ。ふたりは先しか見つめていない。かつての栄光を知らないからこそ、その亡霊に悩まされない、まっさらな状態からスタートできる世代だからだ。ここまでのやや重苦しいインタビューが、最後のゆなな&楽楽のグラビアで晴れ渡っていく。

SKEの未来を感じられる、未来を信じられる、見事な構成です。

 

ネットではすでに売り切れが多いが、大型書店ではまだまだ在庫がある。もし万が一購入を迷っている人がいたら、高柳明音へのインタビューと、アンナ先生&斉藤真木子の対談を読むためだけでも買うべきだ。SKE48に詳しくないぼくでも、このふたつにはシビれた。下手なビジネス書を読むよりもモチベーションが上がるぞ。