『ザ・ノンフィクション AKB総選挙』―イビツであるがゆえの純粋さ―
6月26日。
奇しくもAKB48を題材にした、二本のドキュメンタリー番組が放送された。
そのひとつ、フジテレビで放送された『ザ・ノンフィクション AKB総選挙』についての感想です。
番組では、主にふたりの男性にスポットを当てていました。
ひとりは、宮崎美穂推しの男性。
はっきりいって、彼はちょっと異常だ。
単身赴任で東京に来て、みゃおにハマった。握手会に通ううちに、家に帰ることが少なくなった。そうこうするうちに、離婚することになってしまったのだという。彼にはふたりの息子がいるそうだ。
「寂しくないですか」との問いに、こう答えた。
「みゃおで埋めてます」。
しかし、家族を失ったのは、みゃおにハマったせいなのだ。
もうひとりは、大島涼花推しの男性。
こちらは一見やさしそうなお父さんという感じで、握手会にも娘さんとともに訪れている。しかし、この男性がファンになったきっかけというのも、ちょっと変わっている。奥さんが亡くなって抜け殻のようになっていたある日、AKBのコンサートに行った。次に劇場公演に行き、やがて握手会に行くようになった。その握手会で、大島涼花から「劇場公演にいたでしょ?」と話しかけられてもらい、認知されていることに驚き喜んだ。これがきっかけらしい。
このエピソード、番組ではいい話のように扱っていたが、本当にそうなのか。
家族を失った悲しみをアイドルで埋めるというのは、失礼を承知でいえば、ちょっとおかしいと思う。普通そういった感情は、残された家族とのかかわりで埋め合わせていくべきものだろう。ところが、彼は喪失感をアイドルの応援で満たした。この意味では、やっぱりこの男性もちょっとズレている気がしてならない。
ただし、ぼくはふたりを非難したり、軽蔑したりしたいわけじゃない。
涼花推しの男性は家族公認だ。彼の母親の「元気になったのは大島涼花ちゃんのおかげ」という言葉からは、AKBに出会う前の男性の憔悴のほどが窺い知れる。10代の女の子のイベントに血道を上げるお父さんというのはどうなのかなと、子どもたちの心情を思わないこともないけれど、父親がふさぎ込んでいるよりは、どんな形であれ、生き生きとしているほうがいいのは間違いない。一緒に握手会に行っていた娘さんも楽しそうだった。
みゃお推しの男性は家族を捨ててアイドルを選んだ。家族どころか自分の健康も顧みていない。正直いって、みゃおのどこにそこまでの魅力があるのかは謎だけれど、ともかく彼がみゃおについて語るときの顔は心の底から幸せそうだ。
おそらく、世間の良識的な人たちは、彼らを理解できないだろう。そこまでしてのめりこませるのなんておかしい、そんなビジネスモデルはおかしいと非難する人もいるかもしれない。
大島涼花の選挙対策委員会の人たちは夜通し投票作業を続け、速報発表時には、涙を流して喜んでいた。その笑顔は、本当に爽やかですがすがしいものに見えた。
一方、伸び悩んだ宮崎美穂の選対は飲食店に直談判してチラシを置かせてもらっていた。その後、本番で78位に入った瞬間、はじけるような歓声をあげていた。
なぜ彼らがそこまでのめりこむのか、理解できない人がほとんどだと思う。実際、ぼくも彼らほど無我夢中になっているわけではない。
でも、世の中にはイビツな生き方しかできない人がいる。みゃお推しの男性は、みゃおを「癒しであり仕事の糧」といっていた。奥さんを亡くした涼花推しの男性は、「おもしろくも何ともない」日々を「なんとか生きてきた」らしい。それを、大島涼花に救われている。
これは、誰にも否定できない事実だ。
もちろん、彼らがもっと"健全な"方法で救われるのならば、それに越したことはない。でも、彼らを救ったのはアイドルだった。彼らはAKBに救われていて、その恩返しをするために、自分の得にならないことをしている。この労力を別のことに向ければ、きっと金銭的な成功を収めることも不可能ではないはずだ。でも、彼らはイビツな道を選んだ。そこは、努力すればするだけ、世間から奇異のまなざしを向けられる場所だ。だからこそ、ぼくは彼らを、純粋な美しい人たちだと思う。
と、いい感じでまとまりそうだが、そうは問屋が卸さない。
この番組がいやしくもドキュメンタリーを標榜する以上、必要なシーンがあったはずです。そう、宮崎美穂の一件だ。みゃお推しの男性が週刊文春の報道を知る場面。これは、絶対に外すことができないでしょう。なにも残酷な場面が見たいからいってるわけじゃなくて、それを映すことこそが、ドキュメンタリーの本質であるはずだ。
なのでこの番組、最後の最後で片手落ちでしたね。
とはいえ、ファンのお二人の姿には感じるものが多かった。
これから加入するメンバーはもちろん、今いるメンバーにも鑑賞会を開いて感想文を提出させたらどうですか。これ見て変な行動起こすような人は、なかなかいないと思うんだけどなぁ。
献身的なファンを選ぶか、それとも恋愛感情や享楽を選ぶか。
前者を選ぶ人にこそ、アイドルという職業はふさわしい。